Home その他 「フジロック」初のYouTube中継がもたらした、5つの新しいマーケット価値

「フジロック」初のYouTube中継がもたらした、5つの新しいマーケット価値

42 second read
0
240

デジタルvs.アナログのジレンマ

配信決定のニュースを見たときに思ったのは、「なるほど。たしかにやったほうがいいよね。むしろなんでやらなかったんだろう」という疑問。理由はおそらく、チケットを購入してその場に参加しないと見られない”という希少性が失われ、来場者が減るのではないかいう懸念。実際、ハフポストの取材でもフジロック主催者がこの懸念は若干あると回答していました。

これを読んで想起したのが、「ECをやったら店舗の売り上げが落ちてしまうのではないか?」「デジタル公開したら、本や雑誌を買わなくなってしまうのではないか?」というような、よくあるデジタルvs.アナログという図式のジレンマです。

なぜ彼らは中継に踏み切ったのか?

今回、彼らがこのジレンマを破って、中継決定にいたった理由としてあげていたのは
・海外への邦楽アーティストの露出
・今回来れなかった人や興味はあるけど参加まで至らなかった人が、次回以降来てくれるのではないかという期待

マーケティング的にいうと、新規層へのターゲット拡大と潜在層へのアプローチと彼らの態度変容といったところでしょうか。

実際に今回、「海外ユーザーからのコメントで反響がみえて新鮮だった」という発言や、「今年は行けなかったけど、やっぱり行きたくなった!」というような発言もSNS上で多く見られました。

ただ、今回の英断はここで語られた以上のもっと大きな意味やマーケティング価値があるように思えるので、挙げてみたいと思います。

ライブ中継施策のもたらす、より広いマーケティング価値

1.日本の音楽シーンを牽引するというブランディング

まず日本最大級のフェスであるフジロックが日本の音楽フェスの中継の先陣を切ることで、フジロックが日本を代表するフェスであることを示せますし、海外へ日本のアーティストを紹介するというミッションを改めて掲げることで、日本の音楽シーンを牽引しているという姿勢を示すことができます。これはもともとのファンを「さすがフジロック」と熱狂させるだろうし、逆にブランディングがまだ刷り込まれていない若者層には、近年増え続ける音楽フェスの中で、その存在感を強くすることになったと思います。

2.敷居が下がることによる新規層との接近

上記とはすこし相反する話になりますが、逆にブランドの敷居を下げるという効果もあったと思います。フジロック自体、行ったことがない人からすると、距離や過酷さの面を含めた参加のハードルからも、少し閉じたコミュニティのようなイメージをもつ部分があり、「行った人にしか良さなんてわからない」「あの環境に身を置くことが重要、なんでそこまでしていくのか?なんて野暮な質問だ」感が漂っていて、それが良い意味で、ブランドを守っていた部分もあると思います。ただ、中継という扉を開けたことで、新参者を受け付けにくい印象が少し緩和されたように思います。これは新しい層の取り込みに寄与する可能性が高いのではないでしょうか。

ここ10年ののべ来場者数の推移を見てみると大きな減少傾向はなく(下図)、固定ファンが毎年来てくれるといった状態なのかもしれません。ただ、近年は、若年層が少なくなっているのではないかという指摘も多くみられ、そのあたりの課題感に寄与するのではないかと思われます。

(数値参照元:Wikipedia)

3.ファンとの関係性維持・ロイヤルティ強化

フジロックファンたちに聞くと、毎年行っているようなファンでもなんらかの理由で参加できなくなる状況はあるようです。

仕事の都合がどうしてもつかなかった。宿泊先がみつからず、あきらめた。3日間参戦したかったけど、1日しかいけない。子供が生まれたので、しばらくはあきらめる。体調が悪くあきらめた。かなり悩んだけど、ラインアップを見て不参加にした。

そうした「本当は見たかったけど、行けない」という満たされていないニーズを中継で満たすことはファンでいつづけることを促進するでしょう。配信対応への「ありがとう」という気持ちの価値は代えがたいものだと思うし、フジロック主催側の期待通りの“来年は来てくれる”という即時効果までいかなくても、数年後に復活してくれるかもしれないし、来なくても、どこかでフジロックの良さを語ってくれているかもしれない。つぶやいてシェアしてくれるかもしれないです。

実際にこのような感謝を表すツイートも数多くみられました。

「中継なんてフジロックらしくない」そんなコメントももしかしたらでるのかな?と頭をよぎりましたが、ほとんど見られませんでした。ファンこそが現場にいること、苗場でしか味わえない価値を知っているゆえに、中継くらいでその価値が失われないことを知っているのかもしれません。

4.話題量のボリュームアップ

あるステージを1万人が現場で見ている背後で、3万人がYoutube中継を観ている構図を考えると、ソーシャル上の発言量の規模がアップするイメージが付くと思います。

現地にいる来場者を核としたSNS投稿だけだったのが、中継の視聴者もSNS投稿することになったので、当たり前だが話題量が増す。そして、現場からシェアされたところで、すぐに見に行くことはできなかったが、中継であれば、「中継してるんだ! 見てみよう」とすぐに行動に移せるという面でも変化があり、シェアのスピードも加速するのです。実際、チャンネル登録者数は、初日スタート時は4万人ほどだったのが、徐々に増加し最終日には10万人になっていましたし、検索数のトレンドを表すグーグルトレンドのデータでも過去5年間でみても今回の開催期間の検索数がトップになっています。

(出典:グーグルトレンド:検索ワード「フジロック」)

今の時代、ソーシャルでも盛り上がったものは、ネットニュースになり、TVのニュースにもなる。コーチェラのビヨンセのパフォーマンスも、全世界に中継されていなかったら、あそこまで話題にならなかったと思います。やはりオンラインであっても、リアルタイムで体験を共有することで、そこから生まれる「鳥肌感」のような実感をもって、即時に広まっていく現象につながるのではないでしょうか?
音楽ファンに言わせると、フェスの醍醐味は「スポーツのように当日その場でなにが起きるかわからないワクワク感」。これは、後日の放送では味わえないが、ワールドカップ中継でもりあがるように、ライブ配信でも十分味わえる価値であり、十分シェアしたくなるものでしょう。
実際、今回直前に発表になったDJ SkrillexのステージへのYOSHIKIの登場は、中継ユーザーも「まだか?」「くるか?」と発言しながら視聴し、その話題は最終的にネットニュースになりました。

また、話題量の増加はオープンなSNSの場だけの話ではなく、ダークソーシャルといわれる、LINEなどのチャッティングネットワークやオフラインの会話でも同様だと思います。
例えば、これまでは参加した仲間うちのみの会話で余韻にひたっていたかもしれないが、参加できなかったが中継を見た友達も含めて、共通の話題として盛り上がり、「あー、あれすごかったよね! 行けなかったけど、中継で見てたよ」という会話が生まれます。この会話量の増加はマインドシェアという視点では重要な意味をもつのではないでしょうか。

5.有料配信モデルも検討可能に

今回はYouTubeで無償で特定アーティストのみの視聴だが、中継視聴ニーズが可視化された今、一部のアーティストは有料にするといったモデルにしていくことだって考えられると思います。
すでに有名アーティストのライブでは、映画館における有料のライブビューイングが一般的になってきています。彼らがそれをよしとするかは別として、そういった来場してくれなくても収益をつくれるモデルへの変換が視野にはいってくるのではないでしょうか。
実際に、有料でも見たいという声もちらほら見受けられました。

会場ではなにか変化が起きたか?

と、ここまで、YouTubeによる配信がもたらす価値を上げていたが、現場では何か変化があったのでしょうか? 実際に現地入りしていた編集部員に話を聞いた結果の結論がこちらです。

「ぶっちゃけ配信されてようがいまいが、特段の変わりはない。」

視聴数が現場で可視化されていたり、アーティストがMCで中継に何度も呼び掛けたり、参加者も現場でも中継ですませて移動をやめたり…そんな様子はほぼみられなかったそうです。

現場にいる人には特に中継を意識させず、その場を楽しむことに集中してもらう。変に中継で現場に価値を与えようとせず、これまでの体験価値を崩さずに提供することに徹する。このあたりに、これまで築きあげた体験価値を守るという姿勢が垣間見られましたし、その自信こそが中継に踏み切れる理由なのかもしれません。

(ちなみに、編集部員は、リストバンドを車に忘れ、取りに帰るというテンションが下がるトラブル時に、中継を見ながら移動できたのでちょっと救われたというエピソードを教えてくれました。)

フジロックの英断が教えてくれること

フジロック史上初めての試みとなったYouTubeによる同時配信。
彼らは本施策について来年以降の来場者数で判断していくことになるのだと思います。( コメント欄の書き込みが荒れたことへの不満が出た以外、なんのトラブルもなかった時点でSoftBankさん、YouTubeさん含め、もちろん配信自体は大成功だと思います!)

来場経験のある周囲の友人たちにも聞き込みしたところ、冒頭でいったように「やっぱり現場に行きたくなった」という感想もある一方で、「台風だったし、おうちで超快適だった!」「行かなくてもいい理由がひとつ増えた」「クリックひとつでステージ移動できるなんて!」という新たに生まれたおうちフジロック体験の価値を実感する声ももちろんありました。

しかし、これを悲観的に捉えるよりは、これまで挙げたような、短期的な来場者数では測れないマーケティング価値を生む意義のあるスタートと捉えるべきではないでしょうか?

今回記事を書いていて感じたのが、短期的な収益というよりは、ブランドとしてどうすべきか、ファンとの関係をどう持つか、どのようにして世にインパクトを与えていくのかという大きな問いに答えた結果の施策なのではないかということ。
このような問いに答えていくことが、デジタルvs.アナログという意味のない対立構造に決着をつけることにつながることを示してくれているのかもしれません。

フジロックの英断は「デジタルシフトすることで、既存の利益が損なわれるかもしれない」という理由で、なかなか改革に踏み出せないという企業たちに示唆を与えてくれている気がします。

※本記事執筆にあたり、フジロック参加者、中継視聴者の方にご意見・写真提供いただきましたこと、感謝いたします。

Let’s block ads! (Why?)


Source link

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

Check Also

オージーケーカブト、オープンフェイス「エクシード」にグラフィックモデル2種追加へ – レスポンス

オージーケーカブトは、二輪用オープンフェイスヘルメット「エクシード」にグラフィックモデル「グライド」および「ソ … …