Home モデル 【冨永愛、モデルへの道 Vol.13】言葉なきコミュニケーション(前編)

【冨永愛、モデルへの道 Vol.13】言葉なきコミュニケーション(前編)

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その瞬間。
私を包む雑音は消えうせ、辺りは無音となる。

押しては引く波のように、脈打つ鼓動に乗せて。
意識とはかけ離れた別の何かに突き動かされる。
それでいて私の体は、一匹の虫さえも見逃さない静寂の水面のよう。

なめらかに滑る緊張感の中、目に映るのはあの黒く光る不気味なレンズ。
それは得体の知れない茫漠な宇宙。

私の体は束縛されながらも喨々と響き渡る。
指の先、足の先、髪の毛の一本一本まで、触れると弾けてしまいそうなほどに。
満ち満ちていく、私の魂。

……それが私にとっての撮影だ。

ヘアメイクを仕込み、スタイリストが用意した衣装を身に纏い、カメラの前に立つ。
その一連の流れはいつも変わらないのだけれど、どのようなヘアメイクでどんな衣装を着るのかは、その時になってみないと分からない。

快活な私、純粋な私、マニッシュな私、妖艶な私、退廃的な私……。

一見した印象だけではなく、どんな人にも全ての魅力が潜んでいるものだ。内側に潜む断片的な自分を自在に操り引き出すこと、それができるのが一流のモデルだと私は思う。そしてそれを可能にするのが、カメラマンとの言葉なきコミュニケーション。いわゆる、誘導である。

「どうくる? そうきたか、じゃあこっちだ、いや、そうじゃない、こっちだ、そう、それだ、もっとだ、今度はこっちだ、いや、違う、こっちだ、そうだ」

カメラマンが言葉なしにそう伝えてくるのであれば、私はそれに応えるようにどんどん自分を滲み出させていく。

撮影中にはこういった「言葉なきコミュニケーション」が、レンズを通してカメラマンとの間に起こる。
自分の感覚を極限まで研ぎ澄まし、それを敏感に感じ取りながら、撮影が進行していく。

毎回同じカメラマンと撮影するわけではない。
初めて会うカメラマンとの間でもこの意思疎通がなければならないのだが、阿吽の呼吸のような意思疎通が取れるかどうかは未知数。完璧なマッチングが起きた時には、自分の潜在的な力が湧き出るような感覚になる。

それは今まで経験した中でも指折り数えるくらいしかなかったように思う。
そのようにしてできた写真は、必ずと言っていいほど素晴らしい作品になった。

全ての撮影をそれに近い状態に持っていかなければならないと思いながら、いつも撮影に挑んでいるのだけれど、なかなかそうもいかないのが現実。
日本では滅多にないことだけれど、海外の撮影では写真の出来栄えが良くなかったら雑誌には掲載されないこともある。
そのシュチュエーションに自分がマッチしなければ、撮影途中であっても帰されることもあり得るし、実際、NYではモデルが帰されるのを見たこともある。

どんな状況であれカメラの前に立てばベストを尽くし、やり抜かなければならない、常に崖っぷちな感覚。
身一つでスタジオに乗り込むモデルには、与えられたシチュエーションを瞬時に飲み込み、表現する瞬発力が必要なのだ。

(次週、言葉なきコミュニケーション「後編」につづく)

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