Home ブロガー 有名ブロガー・はあちゅうが贈る、人生を今よりちょっとだけ素敵に変えてくれる物語! – カドブン

有名ブロガー・はあちゅうが贈る、人生を今よりちょっとだけ素敵に変えてくれる物語! – カドブン

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 毎日を頑張るすべての人へ――。
 有名ブロガー・はあちゅうが贈る、超実用的な応援小説『とにかくウツなOLの、人生を変える1か月』が3月24日に文庫版で発売となります。文庫化を記念して、物語の魅力が詰まった「プロローグ」を一挙大公開!
 主人公は、慢性的な倦怠感を抱く20代後半のOL・奈緒なお。ある日「メンタルジム・ヒカリ」という謎の扉を開いたところから奈緒の毎日が少しずつ動き出していき……。心と体、仕事、恋、お金、時間、人間関係――人生にまつわる尽きない悩みや不安に、きっと誰もが共感する!
 奈緒と一緒に、あなたも“なりたい自分”を見つけてみませんか?

◆ ◆ ◆

プロローグ メンタルジムとの出会い

 枕元のスマホが二度目のアラームを鳴らし始めたのを、手さぐりで止めた。全身がマジックテープになり、ベッドにぴたりとくっついたかのように、体が動かない。
 視界には食べかすだけを残したコンビニ弁当と、半分だけ空いたチューハイの缶。
 気だるい。
 でも、とにかく起きて、会社に行く準備をしなければいけない。
 奈緒はふうとため息をつき、まだ仕事も始まっていない時間からため息をつく自分の境遇をふがいなく思った。世の中にはきっと、朝が来るのが嬉しくてたまらない人もいるはずなのに、自分はどうしてこうなんだろう。昨日と変わり映えしない一日をまた繰り返すだけだとわかっているのに、楽しい気持ちになんてとてもなれない。
 広くはないけれど、20代OLの一人暮らしには十分と言える大きさのワンルーム。部屋は多少散らかっているとはいえ、ふかふかのベッドも、カーテンと揃えたベッドカバーも、うまく家具を配置してつくったパソコンスペースも気に入っていて居心地がいい。けれど、気に入りの家具も、決して奈緒の気持ちを盛り上げてはくれない。
 この後の流れを頭でシミュレーションしてみる。どうにか体を動かして、ベッドを離れて、シャワーに移動。髪の毛を洗って、髪を乾かして、いつもの手順でメイク。日焼け止めとコンシーラーを塗って、ファンデーション、眉、目元、それからチーク、仕上げにリップクリームという流れだ。大体全工程が10分で終わるけれど、その10分をなるべく有効に使いたいので、いつも、メイク前にはテレビをつけて情報番組を流し見する。天気予報をチェックして、洋服を考えて、着替えて、冷蔵庫の中のヨーグルトや菓子パンや、タッパーにうつして保管してあるデリをキッチンで立ったまま食べて、髪の毛を少しだけコテで巻く。必要な書類を整えて、忘れ物がないかチェックして、家を出る。
 ここまででやっと、序章だ。
 奈緒の長い長い一日は、メールチェックから始まる。この作業は会社に着いてからではなく、通勤電車の中から始まるのだ。スマホで所属部署のメンバーの日報などをチェックして、ちゃちゃっと返事ができるものにはスマホから返信を打つ。込み入った内容のものは、会社に着いてから処理するために、未読のままにしておく。会社に着いたら、席に座って、カバンからペンとノートと、出勤途中に買ったペットボトル飲料だけを出して、脇目もふらずに前日に終わらなかった仕事に取り掛かる。パソコンを開けば、書きかけの書類にメール、読みたくてもチェックしきれていないネット記事などが溢れかえり、どんなにデスク周りがキレイでも頭の中が一気にごっちゃになる。
 この時点で奈緒はもう疲れていることが多い。これから始まる、終わらない仕事の始まりに、深くため息をついてしまうのだ。
 前日の会社での一幕を思い出す。

「奈緒さん、ライターさんから連絡があって、原稿、明日の朝になるそうです」
 そう後輩の優子ゆうこから伝えられ、まるで他人事のようなその言いぐさに、カチンときてしまった。
「本当は今夜チェックして、明日の午前中には記事、配信するはずだったでしょ? そもそも田中さん、前回もそうやってギリギリで、こっちが最終チェックできなくて、配信日遅らせたじゃない。余裕持って作業できるスケジュールなのに、いつもギリギリ。優子ちゃんも、もうちょっと早くから、原稿せかして。いつものことなんだから」
 田中というのはライターの名字だ。
「そうは言っても、私も何度も言ってるんですよ。次に遅らせたら編集長怒りますよって」
 編集長が怒る……。そういう問題だろうか。編集長が怒る怒らないの問題ではなく、ライターというのは期日までに記事を仕上げるのが仕事なのではないだろうか。
 優子も優子だ。全ての責任を奈緒に押し付け、自分は、ライターに対していい顔ばかりしている。翌朝記事が配信できなかったら、今週のPV数がまた下がってしまう。そうでなくても、最近はヒット記事が少ないのだ。このままPVが下がり続けたら、ますます部署のモチベーションも下がるし、広告収入も減ってしまう。
 仕方なく奈緒が直接田中に電話して、明日の始業時間までに原稿を送るよう催促したけれど、田中は、なんだか喧嘩腰だった。
「大体、〆切までの間隔が短すぎるんですよ。他の媒体は、もっと余裕を持って仕事をくれるんです」
 それなら他の媒体で仕事をすればいいだけだ。うちの媒体は〆切までの期間が短い分、執筆料は他の媒体より割高にしているつもりだ。そう言いかえしたかったけれど、これ以上言い合ってもしょうがないので、田中の言い分を聞くだけ聞いて電話を切った。

 今日会社に着くころには、田中からの原稿がちゃんと届いていればよいのだが。
 奈緒が担当しているのはOLをターゲットにした情報サイトで、配信する記事は全て、部員のチェックを経て、最終チェックは奈緒がする。
 それが、編集長としての務めだからだ。昨日も、翌日配信のその他全ての記事をチェックして、予約投稿モードでセットし、たまったメールを処理して、気づけば23時。そして、家に帰ってコンビニ弁当を食べながら一人晩酌を始めたのが、24時。
 遅い時間に食べたせいで、胃のあたりがまだもったりと重い。

 名刺の肩書にある「編集長」とは名ばかりで、実態はただの雑用係だと奈緒自身は思っている。
 仕事は、サイトの更新、記事のチェック、取材、取材のアポ取り、撮影の許可取り、読者の問い合わせ対応、広告営業などなど、幅広い。
 記事は、一日三本ずつ配信していて、その半分ほどが、ライターに外注するのではなく、オリジナルの記事だ。つまり、それは、奈緒をはじめとした編集部員の分担ということ。サイトのアクセス解析や広告の営業など、記事配信以外の業務も過密な中で、一週間に数本のオリジナル記事を作成するのは、至難の業だ。いずれ外注のライターの記事をまとめるだけにしたいけれど、今はまだ全部外注にできるほどの予算がない。
 一年前まで、奈緒はデータの入力をひたすらやればいい楽な部署にいた。業務内容自体は退屈だったけれど、ほぼ決まった時間に帰れるOL生活は気楽で、毎晩社内外の友人と時間を合わせてご飯に行って、雑誌にあるような東京のOLライフを曲がりなりにも送れていた気がする。もちろん、当時も「このままの自分でよいのか」という将来への迷いがなかったとは言い切れないけれど、適度に仕事をして適度に気晴らしをするというその日その日の楽しみが、将来への不安をかき消してくれていた。
 けれど会社が昨年、ウェブメディアをいくつも買収して、そのうちの一つを突然任されることになり、急に状況が変わってしまったのだ。女性向けのサイトだから、編集長が若い女性であれば、テレビや雑誌の取材を受ける時に有利だ、と上司には説得された。同期からは羨ましがられて、奈緒も一瞬得意になったけれど、いざ業務が始まってみると、仕事はきついし、残業は増えたのにお給料は据え置きだし、思ったよりも「編集長」としてメディアに出る機会も少ない。
 これだったら、頭を使わずにかたかたと目の前のデータをエクセルに入力していく前の部署のほうがよっぽど良かった。おまけに前の部署は、営業の男性がデータ作成を頼みに、ちょくちょく部署に遊びに来てくれたのだけれど、今の部署は女性だらけで、男性は、業務には一切手を出さず形だけで部長席に居座っている上司一人だけだ。
 別に会社にロマンスは求めていないし、特に狙っている男性がいるわけでもなかったけれど、異性がいるほうが気持ちに少し張り合いが出る。
 奈緒は身勝手な人間ではないと自分では思う。客観的に自分を見る冷静さも持ち合わせているつもりだ。だから、自分だけが苦労しているわけではない、とちゃんと頭では理解している。きっと、同じ年代の多くの女性が同じようにもやもやを抱えているだろうし、どこかの会社に転職したり、会社を辞めたりすることで、このもやもやが解消されるわけではないだろう。
 でも、仕事に対しては、希望してもいないのに押し付けられた仕事、とどうしても感じてしまって、会社に行くのが憂鬱だ。行かなくてはいけないと思えば思うほど、奈緒は、ずぶずぶとベッドに深く沈みたくなる。
 傍から見たら何一つ不自由ない暮らしを送っているのかもしれない。もちろん上を見れば上がいるけれど、奈緒が知っている限り、自分の生活はかなり恵まれていて、これ以上のものをのぞむのは罰当たりだという気もする。
 だからこそ、自分の人生に飽きているだなんて、認めたくはないのだ。認めたからって具体的にここをこうしたいなんて考えは思い浮かばない。
 慢性的な倦怠感。
 この間、整体に行った時に書かされたカルテで、マルをつけた症状だ。べったりとしただるさが、ここのところずっと取れない。カルテに印字してあるくらいだから、みんなが抱えている普通の症状なのだろうか。
 頭が重くて、体が起き上がらないまま、奈緒は左手を思いっきり伸ばして、リモコンを掴んだ。昨夜、テレビを見ながら寝落ちして、夜中に一度起きて消して、リモコンをそのまま放り投げたので、ベッドの近くに転がっていたのだ。
 ニュースではちょうど、どこかの国の紛争の映像が流れていた。女子アナが真剣な面持ちで、日々の暮らしに困っている人々の様子をレポートしている。
 ご飯が十分に食べられない人や、戦争で命の危険に脅かされるような国に住んでいる人からしたら、奈緒の人生は、夢の暮らしだろう。
 大学を出て、ちゃんとした仕事について、お給料で好きなものを食べて、気に入ったお洋服を買えて、両親も大病はせずに元気に暮らしている。自分で思い返してみても、苦労と呼べるような苦労をした経験がない。だから逆に、就職活動中の面接でいきなり「これまで一番つらかったことは?」なんて質問が飛んできた時に戸惑った。こんなに苦労知らずの人生で、幸せじゃないなんて言ったら罰があたるだろう。
 それなのに、毎日に満足しているかと問われたら首を縦に振ることはできない。
 人生への不満は、数えていけばキリがない。そもそも、卒業した大学は第一志望の大学ではなく、滑り止めで受けた二流大学だし、就活でも志望していた一流企業は軒並み落ちて、なんとかひっかかった二流の会社に居座っているだけ。
 IT業界というだけで、両親は喜んでくれたけれど、今住んでいるこの部屋の契約の時だって、担当者は奈緒の企業の名前を何度も聞き返した。これが有名企業であれば、一発で聞き取ってもらえて、入居の手続きに手間取ることもなかっただろう。部屋を借りた時は新入社員で社歴が浅かったからかもしれないけれど、保証人として親の名前が必要で、会社名の弱さが原因かもしれない、と落ち込んだ。
 行くあてのない奈緒を拾ってくれたとはいえ、会社は残業だらけの割にお給料は低いし、忙しくて時間の余裕も持てていない。貯金はないわけではないが心を満たしてくれるほどにはなく、彼氏もいない。恋もしていない。ブスとまではいわなくても可愛いとはいえない平凡な顔で、足には少し肉がつきすぎている。特技もない。趣味もこれといってない。
 ひとつひとつ自分の人生を構成しているパーツとそれへの不満を挙げていくと、どんどん心が空しくなって来る。
 テレビでは、さっきまで神妙な顔つきで紛争のニュースを読んでいた女子アナが打って変わって笑顔で、今日オープンするというケーキショップのレポートをしていた。こういう女の子たちはきっと、第一志望のいい大学を出て、ミスコンに出て、……と、華やかで楽しい人生を送っているに違いない。そうじゃなければ、朝早くから、こんなに明るくて屈託のない笑顔で笑えるわけがない。
 まぶしい画面の中と、ベッドから起きられない自分は、ちょうど世界の表と裏のようだ。映画などでは、ある日、この二人の体が入れ替わって……なんて展開があるけれど、本当にそんなことが自分の身にも起こったらどんなにいいだろう。
 あの女子アナの笑顔には、誰かを幸せにするだけの価値がある。何百万人という視聴者が、彼女の姿を見て「よし、今日も頑張ろう」という気になるんだろう。
 それに比べて私は、一体何のために生きているのだろう。ふとした時に、そういった思いにがんじがらめになってしまうと、音も光もない真っ暗闇の世界に閉じ込められた気持ちになる。こんな人生に、いつか明かりが差すこともあるのだろうか。

(つづく)



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