Home ユーチューバー 辻仁成「太く長く生きる」(47)「我らがフィッシャーズ!」

辻仁成「太く長く生きる」(47)「我らがフィッシャーズ!」

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「正面にオペラ座が見えます。オペラ地区は日本食材店があつまるプティ日本人街です。」

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 ここ最近、ユーチューバーという言葉をよく耳にします。だいたいニュースで見かけることが多く、それもあまりいいニュースではありませんね。金融詐欺事件に関わったり、コンビニを襲って商品を持ち逃げするところを撮影して捕まったり、アメリカの有名なユーチューバーに至っては富士山の樹海に入って自殺した人の動画を撮影、配信して物議を醸しましたし、しまいにはユーチューバーの若い女性がYouTube本社を襲撃しました。各メディアでユーチューバーの倫理観の無さが問題視されています。安易な思い付きでフォロワーを増やそうとするから、このような事件が増えるのでしょう。同時に子供たちの成りたい職業のトップにユーチューバーがランクイン。しかも若い。日本のトップユーチューバーたちでさえ二十代という若さ、つまり、単純に彼らはまだ過渡期にいるわけです。

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 ちなみにフランスでもYouTubeは大人気。人口が日本の半分のこの国でトップのユーチューバーたちのフォロワー数は日本のユーチューバーより多い。1000万人を超えるフォロワーのユーチューバーたちが存在します。フランスの子供たちの多くはテレビをほとんど見ることはなく、やはりYouTube。日本とちょっと違うな、と思うのはこちらのユーチューバーたちの動画はかなり真面目なものも多いという点でしょうか。教育番組みたいなものが結構あります。フランスの人気ユーチューバーたちは割と常識の範囲内で番組を作り、彼らなりの倫理観の中で見事にバランスを保って支持を増やしているように見受けられます。

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 息子が落第の危機に陥ったことがありました。二年前のことです。「落第する可能性がある」と担任に告げられ私は衝撃を受けました。どうやったらこの子を勉学に集中させることができるだろう。思えば、日本人夫婦の下に生まれた我が子、フランス語の能力が他の子より落ちるのは仕方ありません。フランス語はこの国の母語ですから、これができなければすべての科目に影響が及びます。私は必死で悩み、解決策をYouTubeに託しました。「成績あがるまでゲームはとりあえず禁止、でも、ユーチューブはOK」これを宣告した日が息子の成長の始まりとなったのです。

 私はフランスのユーチューバーたちの中に、歴史や化学や言語学や物理の専門家がかなりいて、それなりのフォロワー数を抱えていることに着目。息子とそれを一緒に観るようになりました。毎日、食事の時間に二人でYouTubeに嚙(かじ)り付くようになったのです。もちろん、フランス語の苦手な私に意味など分かりません。しかし彼らはフォロワーを笑わせる力があり、言葉の苦手な私をも退屈させませんでした。彼らは息子の好奇心を刺激し、勉学へと向かわせたのです。落第宣告を受けた次の学期に息子の成績は飛躍的に伸びました。私がどんなに逆立ちしても教えることのできないフランスの歴史、フランス式数学、そしてフランス語、スペイン語で、彼は平均を越えました。先生に「お父さん頑張りましたね」と褒められました。いいえ、それはユーチューバーたちのおかげなのです。きっと日本にもそういうユーチューバーがいるはず。成績で伸び悩んでいる親御さんはそういうユーチューバーの番組を利用されたらいいのです。間違いなく英語を教えるユーチューバーはいるはず。そういう番組を利用しない手はありません。

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 そんなある日、息子が「パパ、日本にも素晴らしいユーチューバーがいるんだよ」と教えてくれたのがフィッシャーズでした。ご存知ですか? 全員23歳の若いユーチューバー七人衆です。彼らはおもにアスレチックをやる番組作りで話題を集めました。現在のフォロワー数は440万人ほど。半信半疑で見始めたのですが、超面白い!それからほぼ毎日フィッシャーズを息子とチェックしております。何故面白いのか、と言いますと、彼らの笑いはいわゆる芸人のお笑いとは違うのです。仲良しの仲間たちの中で起こる自然な笑い。そしてそれは人々のノスタルジーを刺激します。幼馴染(なじ)みのこの七人の友情が多くの日本の若者をシンプルに共感させているという点が私の興味を引きました。見ていて清々(すがすが)しいし、友情の在り方が羨ましいし、若ければこういう先輩がほしいだろうし、番組を見ることで孤独が癒やされ、そして友達が大切な財産であることを教えられるのです。道徳的といってしまえば大人からの偉そうな視線と映るかもしれませんが、彼らの純粋な生き方が息子を強く励ましたのは事実でした。そして、現在、息子はこのフランスでフィッシャーズのような仲間たちに囲まれ、元気に毎日を生きています。

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 リーダーのシルクロードことシルクは仲間を尊重し、誰に対しても優しいまなざしがその中心にあります。この子は運動能力が驚くほどに高く、猿とか忍者の域です。笑。けれども、仲間を思いやる力、統率する力もそれに負けないほどに高い、いわばスーパー学級委員タイプ。常連の片割れ、ンダホはいわゆるクラスに一人は必ずいるボケ役ですが、おでぶちゃんで、みんなについていけないことで、わざと笑いをとっている道化師役。でも、この子、実は元野球部で実際には運動能力が高いので、その笑いの中には彼一流の芸風が隠されています。シルクとの絆も強く、普通だけど心のこもった率直な彼らのやりとりに泣けることがあります。ああ、こういう友情って素晴らしいな、と思わせる温かみがある。そこにモトキという青年が介在してきます。モトキは七人随一のムードメーカー、モトキがいるだけで場面が和むのです。もう一人頻繁に出て来る子がマサイ、この子はちょっと動きがおかしいんですね。憎めないマサイは唯我独尊というのか不思議ちゃんで、だから人気があるのかもしれない。あ、ペケタンを忘れてました。ペケタンは向こう見ずでガッツがある猪突(ちょとつ)猛進のマイペース青年です。ペケタンをみんなほっとけない。そういう子、いましたよね? シルクは優等生ですが、優等生じゃない子たちの活躍もこの動画の見どころです。もう一人不思議な子が、そうそうダーマ。おたく系? 佇(たたず)まいはムーミン? 天然の妖精ちゃんみたいで笑わせてくれます。最後にザカオはあまり出てきませんが、シルクに負けないくらい身体能力の高いブレークダンサー。彼は本職がダンサーなので忙しいのか、時々やって来る。でも、彼がふらっと現れて画面に七人並ぶ時、番組は最高潮に盛り上がるのです。仲間がやって来た!番組は普段、シルクを中心に3人くらいでやっていることが多いのですが、7人全員がそろうと、ああ、今日は全員いるんだね!賑(にぎ)やかでいいね、となります。そう、地元に帰って来たぜ、みたいな郷愁が生まれる仕組み。彼ら七人、どの子もクラスに一人はいるタイプ。そこが彼らの魅力なのです。フィッシャーズそのものが理想の教室でもあるわけです。

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 どうです? 一度、フィッシャーズの番組を覗(のぞ)いてみてください。出来不出来はありますが、ご愛敬。しかし、どの番組にも日本の懐かしい原風景が広がっています。私は彼らが大好きです。日本人の良さを彼らは生まれながらに持っていて、それが動画から滲(にじ)みだしているのですから・・・。私の推奨するユーチューバー集団です。

今日のひとこと。 『いつもそこに仲間たちがいた』

辻さんプロフィール写真2016年10月21日WEBマガジン用

辻 仁成(Tsuji Hitonari)
 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。著書に『太陽待ち』『サヨナライツカ』『右岸』『永遠者』『クロエとエンゾー』『日付変更線』『息子に贈ることば』『パリのムスコめし』『50代のロッカーが毎朝せっせとお弁当作ってるってかっこ悪いことかもしれないけれど』『父 Mon Père』『エッグマン』など多数。近著に『立ち直る力』(光文社)。
 ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動する。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・ 演出家の時は「つじ じんせい」。

 2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。辻編集長のインタビューはこちら

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